ハワイ在来の鳥たちの祖先
地球上もっとも隔絶した群島であるハワイは、ほとんどの動物にとって、自力で辿り着くにはあまりにも遠い。このことは、ハワイには陸生の爬虫類も両生類も在来種としては存在しないことでもわかる。陸生の哺乳類ではコウモリがいるのみである。ハワイが地理的にいかに隔絶しているかは、『ハワイの花と植物の歴史』の冒頭で書いた。
空を自由に飛ぶことができる鳥たちにとっても、ハワイはあまりにも巨大な海のバリアで囲まれている。ハトも、メジロも、カワセミも、ツバメも、ハワイに到達しておらず、もし到達したとしても、定着できなかった。
そんな絶海の孤島ハワイにも、長旅に適応していたいくつかの鳥類が、長い歴史のどこかでたどり着いて定着することができた。現在生き残っているハワイ在来の鳥類は、海鳥や渡り鳥を除くと、大昔にハワイにたどり着いて定着したわずか13種類の鳥の子孫たちである。ガン、カモ、サギ、バン、オオバン、セイタカシギ、タカ、フクロウ、カラス、カササギヒタキ、ツグミ、フィンチ(マシコ)、ヨシキリの13種である。
アトリ科 Fringillidae
亜種も含めて50以上のハワイミツスイ類(Hawaiian honeycreepers)が知られる。たった1種のフィンチから、生活環境に合わせて嘴、体の色、大きさ、鳴き声、生態が異なる多くの種に分化し、それぞれ独自に進化していったグループである。このような、単一の祖先が多様なニッチ(生態的地位)に適応して起こる種の分化を適応放散(adaptive radiation)という。残念ながら、ハワイミツスイ類の半数以上がすでに絶滅した。
ハワイで野鳥に興味を持つと、誰しもが必ずハワイミツスイに行き着くだろう。この宝石のように美しい鳥たちについては、あらためて別の記事を書こうと思っている。
カササギヒタキ科 Monarchidae
エレパイオ(ハワイヒタキ、ʻElepaio)が、カウアイ島、オアフ島、ハワイ島にそれぞれ固有種として分布する。
カモ科 Anatidae
コロア(ハワイマガモ、Koloa)とレイサン・ダックの2種のカモと、1種のガンがいる。ガンは、現在『ハワイ州の鳥』であるネーネー(ハワイガン、Nēnē)。
カラス科 Corvidae
アララー(ハワイガラス、ʻAlalā)1種が、保護のもとでかろうじて絶滅を免れて生息している。半化石の記録からは、少なくとも他に2種のカラスがハワイ島に生息していたことがわかっているという。
クイナ科 Rallidae
以前は少なくとも6種のクイナ類がいたが、すべて絶滅した。他にはアラエ・ウラ(バン、ʻAlae ʻUla)とアラエ・ケオケオ(オオバン、ʻAlae Keʻokeʻo)がそれぞれ1種ずつ生き残っているが、どちらとも絶滅の危機に瀕している。
サギ科 Ardeidae
アウクウ(ゴイサギ、ʻAukuʻu)が在来種として生息する。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカ大陸に広く分布する。ハワイに生息する鳥のなかで陸生の在来種はほとんどが固有種か固有亜種だが、アウクウはその中では珍しく他の地域にも生息する在来種である。
セイタカシギ科 Recurvirostridae
アエオ(クロエリセイタカシギ、ʻAeʻo)が生息する。固有亜種。
タカ科 Accipitridae
イオ(ハワイノスリ、ʻIo)がハワイ島に生息する。大昔にはカウアイ島、オアフ島、モロカイ島にも生息していたことが化石からわかっている。
ツグミ科 Turdidae
5種のツグミの仲間が知られている。現在生息しているのはオーマオ(ハワイツグミ、ʻŌmaʻo)、とプアイオヒ(Puaiohi)のみ。オーマオはハワイ島固有種。プアイオヒはカウアイ島固有種。
トキ科 Threskiornithidae
半化石の調査から、大昔には空を飛べないトキの仲間がいたことがわかっている。
フクロウ科 Strigidae
プエオ(コミミズク、Pueo)が生息する。固有亜種。
ヨシキリ科 Acrocephalidae
北西ハワイ諸島のレイサン島とニホア島のレイサンヨシキリ(Millerbird)が知られる。レイサン島の基亜種(Acrocephalus familiaris familiaris)は、島に移入されたウサギが原因で20世紀の初頭に絶滅した。ニホア島の亜種(Acrocephalus familiaris kingi)も絶滅の危機に瀕している。先祖はアジアから来たヨシキリの仲間とされる。2011年、ニホア島の亜種をレイサン島に数羽放して、レイサン島のレイサンヨシキリを復活させる試みが行われた。最初の年には17羽が巣立ったという。
Mohoidae(日本語の科名なし)
ある鳥がハワイに定着後に分化して、Mohoidaeというハワイ固有の科になった。長い間、この「ある鳥」はオーストラリア方面から来たミツスイの仲間だと考えられていたが、近年は、北アメリカから来たレンジャクモドキの仲間だとされている。以下の5種が知られるが、残念ながらすべて絶滅した。
カウアイ・オーオー(キモモミツスイ)
Kauaʻi ʻŌʻō(ʻŌʻōʻāʻā)
学名:Moho braccatus
カウアイ島固有種・絶滅種
オアフ・オーオー(ワキフサミツスイ)
Oʻahu ʻŌʻō
学名:Moho apicalis
オアフ島固有種・絶滅種
モロカイ・オーオー/ビショップス・オーオー(ミミフサミツスイ)
Molokaʻi ʻŌʻō (Bishop’s ʻŌʻō)
学名:Moho bishopi
モロカイ島固有種・絶滅種
ハワイ・オーオー(ムネフサミツスイ)
Hawaiʻi ʻŌʻō
学名:Moho nobilis
ハワイ島固有種・絶滅種
キオエア(クロツラミツスイ)
Kioea
学名:Chaetoptila angustipluma
ハワイ島固有種・絶滅種
人間の定住後
人間が定住するまでの長い間、ハワイには野鳥にとって天敵も競争者もいなかった。蚊もアリもいなかった。なかには飛ぶ必要さえなくなり、進化の過程で飛ぶ能力を失った鳥も少なくない。しかし、この鳥たちの楽園ハワイは、人間が現れてから一変することになる。
ハワイ最初の定住民であるポリネシア人が、約4~5世紀に南方からハワイにやってきて定住した。鳥たちは人間を恐れなかったため、大量に捕まえられて食料になり、羽が装飾に使われた。
ポリネシア人の定着から、その後ジェームス・クック(Captain James Cook、1728–1779)が1778年にハワイにやってきてハワイがヨーロッパ文明と接触するまでの千数百年のあいだに、100種以上いたと考えられている鳥のうちの少なくとも35種が絶滅した。特に、飛べない鳥たちはほとんど全滅した。
クック船長の到達以降は、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ヨーロッパ産の大型のブタ、ネズミ、ノミ、シラミ、蚊などが次々とハワイに入ってきてハワイの生態系に大きな影響を与えた。
ブタは、木生シダを倒して幹のでんぷん質の部分を食べたり、土を掘って根や虫を探すため、倒れたシダの跡や穴には水たまりができて、蚊が発生した。その蚊が、鳥マラリアや鳥ポックスなどの病気を森の野鳥に広げていった。ネズミは、鳥の卵や雛を食べる深刻な天敵になった。そのネズミをサトウキビ畑から駆除する目的で1883年に移入されたマングースは、状況をさらに悪化させた。特に地面に巣を作る鳥たちにとっては脅威となった。
クック到達から現在までの間に、さらに23種(亜種も含む)の鳥が絶滅した。森の野鳥の7割はすでに絶滅してしまったか、絶滅の危機に瀕している。
外来の鳥も、在来の鳥たちにとって生存を脅かす存在だ。今日までに150種以上の鳥がハワイに移入され、多くが安定した繁殖を成功させた。これらの外来種が、在来種の食物や営巣場所の競争相手になったり、それまでハワイに存在しなかったや病気や寄生虫を広げたり、外来植物の種子を広げたりした。今日、ワイキキで観光客がみることができる鳥のほとんどが、植物同様、外来種である。
これまで、300種以上の鳥が、ハワイで記録されている。そのうち現在、亜種も含めて約180種の野鳥が生息している。生息環境別のうちわけは、町の鳥が32種、開けた土地の鳥が21種、森の鳥が29種、水辺の鳥が75種、海鳥が24種である。
多くが絶滅したとはいえ、ハワイでは今日なお、約30種の固有種と固有亜種の野鳥が生き残っている。残念ながら、彼らの多くは山奥に追いやられ、病気や天敵や生息地不足に苦しみ、ひっそりと消えていこうとしている。一度消えたら、永遠に戻ることはできないのが絶滅だ。彼らはハワイのかけがえのないプライスレスな宝であり、ハワイの自然が生んだ奇跡の結晶たちである。