ハワイ火山国立公園
2泊3日の探鳥旅行も今日が最終日。夜明け前には起きてホテルをチェックアウトした。初日に行ったプウ・オーオー・トレイルにもう一度行くか、今回まだ行っていないハワイ火山国立公園に行くか、ぎりぎりまで決めかねていた。午前10時くらいまでは雨は降らないと天気予報がいう、ハワイ火山国立公園に行くことにした。
ハワイ火山国立公園(Hawaiʻi Volcanoes National Park)は、有名なキーラウエア火山やマウナ・ロア山がある広大な国立公園で、公園全体がユネスコの世界遺産に登録されている。
ヒロからハワイ火山国立公園までは車で約45分。ヒロを出ると信号機がほとんどなく、快適なドライブだ。7時過ぎに国立公園に到着。すぐに、優れた野鳥観察スポットのひとつであるサーストン・ラバ・チューブへ向かった。
サーストン・ラバ・チューブ
サーストン・ラバ・チューブ(Thurston Lava Tube)は、数百年昔に溶岩が流れたあとにできたトンネル。1913年に、新聞出版者ローリン・サーストンによって発見された。トンネルを含めた長さ約500mのループトレイルとして整備されていて、公園内の人気観光スポットとなっている。
午前7時台には人はほとんどいないので、野鳥の声だけが聞こえる静かな森で、アパパネ(アカハワイミツスイ)を観察することができた。姿は見えなかったが、ハワイ・アマキヒとオーマオ(ハワイツグミ)の鳴き声は聞こえた。
すぐ近くのキーラウエア・イキ・トレイル(Kīlauea Iki Trail)にも過去に実績のある良い野鳥観察スポットがあるので行ってみたが、この日はオーヒア・レフアの花があまり咲いておらず、その蜜を吸うアパパネやアマキヒはあまりいないようだった。
8時半、最初の観光バスが到着した。以降、静かな森は賑やかな観光地に早変わり。野鳥観察どころではないので退散した。
チェーン・オブ・クレーターズ・ロード
次の目的地は、ホーレイ・シーアーチ。目当てはノイオ(ヒメクロアジサシ)だ。
キーラウエア・カルデラとキーラウエア・イキ・クレーターをぐるりと一周するクレーター・リム・ドライブ(Crater Rim Drive)の南東側から海に向かって下る約30kmの道が、チェーン・オブ・クレーターズ・ロード(Chain of Craters Road)。ホーレイ・シーアーチは、その終点にある。
チェーン・オブ・クレーターズ・ロードは、まずクレーターをいくつか通過したあと(そのため「クレーターの鎖の道」と名付けられた)、海のように広大なパホイホイ(パーホエホエ)溶岩を横断する。道の両側および眼下に広がる溶岩と海と空の景色は圧巻。ハワイの絶景ドライブコースの5本の指に入ると思う。
私は、チェーン・オブ・クレーターズ・ロードを運転するときにはBGMをスタジオジブリ映画のサウンドトラックにする。特に『天空の城ラピュタ』や『風の谷のナウシカ』などに収録されている壮大なスケールの曲と溶岩の絶景がベストマッチで、運転していて大変気持ちが良い。
道路沿いに2羽のネーネー(ハワイガン)がいた。『ハワイ州の鳥』に指定されているハワイ固有の雁だ。絶滅危惧種だが、人に慣れていて、間近で撮影することができた。
ホーレイ・シーアーチ
チェーン・オブ・クレーターズ・ロードの終点は行き止まりになっていて、トイレや売店がある。国立公園のレンジャーもいる。看板の指示に従って道路脇に縦列駐車をして、岸壁に向かって短いトレイルを進むと、ホーレイ・シーアーチ(Hōlei Sea Arch)が見える展望所がある。
この高さ約27mの海食アーチは、溶岩流の柔らかい層がいち早く侵食されてできたもので、こういう状態を地学用語では差別侵食(differential erosion)と呼ぶそうである。
景勝地のため、次から次に観光客がやって来てはアーチを背景に記念写真を撮って帰って行く。この場所にしては珍しいことに、日本人の若い女性4人のグループが来た。それぞれが3人で写真を撮っていたので、4人一緒の写真を撮ってあげると、喜んでくれた。
ノイオ(ヒメクロアジサシ)
一帯の岸壁には、ノイオ(ヒメクロアジサシ)が営巣する。全長40cmくらいの黒褐色のアジサシで、普通は足が黒いが、ハワイの主要な島々に生息する個体群の足はオレンジ色で、亜種に分類される。
崖の上から海をのぞいて見ると、はたしてノイオが次々に西から東へ飛んで行く。ときには「ガー」と鳴きながら巣があると思われる岸壁間際を飛んだり、数十羽で一斉に沖に飛んで行ったりする。素早いのでカメラのフレームに収めることさえ容易ではないが、なんとか数枚は写真を撮ることができた。
正午頃、チェーン・オブ・クレーターズ・ロードを引き返し、山に戻った。もし天気が良ければ山で再び野鳥観察をするつもりだったが、予報通りの雨のため断念。車内で1時間ほど仮眠して、ヒロに戻った。
ケアロハ・ビーチパーク
帰りの飛行機まで少し時間がある。岸辺の鳥を目当てに、ヒロのケアロハ・ビーチパーク(Kealoha Beach Park)に行ってみた。毎年8月から4月まで、アケケケ(キョウジョシギ)、ウーリリ(メリケンキアシシギ)、コーレア(ムナグロ)などの冬鳥が観察できる場所だ。この日は、1羽のコーレアと行動を共にする10羽くらいのアケケケを観察できた。ウーリリの姿はなかった。
ビーチパークの名前であるケアロハには、「哀れみ」や「同情」などの意味があるが、この場合はハワイ島出身の政治家ジェームス・ケアロハ(James Kealoha。1908–1983)にちなんで名付けられたものである。
ロコワカ池
ビーチパークの道路を挟んだ隣にはロコワカ池(Lokowaka Pond)があり、こちらにはアウクウ(ゴイサギ)やアラエ・ケオケオ(ハワイオオバン)などの水辺の鳥が生息している。ケアロハ・ビーチパークとともに絶好の野鳥観察ポイントだ。
ちなみに、ロコワカは「ワカの池」という意味。伝説によると、ワカという名前の大トカゲがいた。火山の女神ペレは、ワカがある男に関心を抱いたことに嫉妬した。ワカは、嫉妬心に燃えるペレから逃げるためにこの池に飛び込んだのだそうだ。聞き慣れないハワイ語の地名でも、由来や意味を知っておくと、その土地を訪れたときにより楽しい。
3日間、さほど大きな収穫はなかったが、今回の探鳥はここまで。夜の飛行機でヒロからホノルルに戻った。
写真はすべて筆者による撮影