エルヴィス、ビートルズ、そしてボブ・ディラン
エルヴィスが子守唄
生まれた時から熊本の実家では、年中、父親が偏愛したエルヴィス・プレスリーの曲が流れていた。大げさではなく、エルヴィスの歌を子守唄にして育ったようなものだ。当然、エルヴィスの曲はほとんど歌えるほど知っている。
中学生になると、エルヴィスの音楽性やカリスマ性もよく理解できるようになった。私は特に初期のロカビリー色の強い曲が好きだった。サン・レコード時代の「Blue Moon of Kentucky」、「I Don’t Care if the Sun Don’t Shine」、「Baby Let’s Play House」、「Mystery Train」などをひたすら聴いていた。今もこれらの曲を聴くと、熊本の少年時代の情景や思い出や匂いがノスタルジックに蘇ってくる。
ビートルズに没頭した高校時代
そこから自然の流れで、カール・パーキンス、チャック・ベリー、リトル・リチャードなど、エルヴィスが歌った名曲たちを作った同時代のアーティストや、彼らの曲をカバーしたザ・ビートルズなども聴くようになった。
特にビートルズは、私が高校1年生のときに通称「赤盤・青盤」と呼ばれるコンピレーションアルバムがCDで発売されたということもあり、よく聴いた。高校1年生の冬から毎月1枚ずつ、デビューアルバム「Please Please Me」から順にすべての英国版CDアルバムを、熊本市街の上通りにあるウッドペッカーというレコード屋で買い揃えて愛聴した。“英国版”というのが小さなこだわりだった。
翌年、高校2年生のときに「Live at the BBC」が発売され、エルヴィスのバージョンで慣れ親しんでいた「That’s All Right (Mama)」、「I Forgot to Remember to Forget」、「I Got a Woman」、「Johnny B. Goode」などの曲のビートルズによるライブカバーを聞いて、さらにビートルズに熱中していった。
特に、ジョン・レノンが好きだった。
さらに翌年、高校3年生の大晦日、テレビで「ザ・ビートルズ・アンソロジー」のドキュメンタリーが放映された。紅白歌合戦の裏番組だった。番組の案内役だった小宮悦子さんもジョンのファンで、「Strawberry Fields Forever」などの曲が好きだと言っていたのが嬉しかったことを覚えている。
そしてボブ・ディランへ
ドキュメンタリーのなかで、ビートルズに大きな影響を与えた人物としてボブ・ディランが登場した。とくにジョンが熱狂的に惚れ込んだと知って、私もボブ・ディランのことが気になった。
ボブ・ディランはたくさんのアルバムを出していて、いつの時代のどのアルバムを買えばいいか迷ったが、まずは有名な「Like a Rolling Stone」が収録されている「Highway 61 Revisited」を買った。
一曲目の「Like a Rolling Stone」のイントロから一番を聴いてすぐ、ノックアウトされた。めちゃめちゃかっこいいと思った。今まで聴いてきたどんな曲とも違っていた。30年前の曲とは信じられないくらいなにもかも斬新に聴こえた。もちろん、当時18歳の私には歌の意味はほとんどわからなかったが、なんとなくすごいということは感じとれた。ちなみに、ボブ・ディランには、歌詞の内容はわかってもその歌の真意は難解すぎてわからない曲がたくさんある。
アルバム最後の曲「Desolation Row」も、とんでもない曲だと思った。11分もあるアコースティックギターでの弾き語り曲で、いろんな登場人物が出てくるが、なかなか意味がわからない。でもなんかかっこいいのだ。歌詞をみながら何度も何度も聴いた。長大な歌詞だが、今では一字一句すべて覚えてしまった。2001年3月に福岡で初めてボブ・ディランのコンサートを観たが、そのときの3曲目で「Desolation Row」を生で聴けたのは嬉しかった。なお、この日のことは「ボブ・ディランのコンサート」で詳しく書いた。
「Highway 61 Revisited」を聴いた母も、私と同じようにボブ・ディランにはまってしまった。以降は、母と一緒にせっせと全アルバムを買い揃えた。
ボブ・ディランを聴いて、確かに彼がビートルズに影響を与えたことがわかった。まず歌詞の内容が「Rubber Soul」あたりから哲学的になっていくし、サウンドがボブ・ディランっぽい曲がちらほらある。ジョンの「You’ve Got to Hide Your Love Away」はいかにもボブ・ディラン風だし、ポールの「Rocky...