ハワイの暮らし

カイムキのピルボックス・ファーマシーが閉店

ピルボックス・ファーマシー
寂しいニュース 「ピルボックスが閉店するらしいよ……」 「えっ?」 2020年9月の初めに飛び込んできた、ショッキングなニュースだった。 ピルボックスとは、ホノルル市カイムキ地区の11thアベニューにある小さな薬局『The Pillbox Pharmacy』のこと。1974年に現在の場所にオープンして以来、半世紀近くにわたって多くの住民に親しまれてきた店だ。 薬の他に日用品、雑貨、文房具、スナック菓子、ハワイ土産なども売っている。特に、オレゴン州のカスケード・グラシア社(Cascade Glacier)のアイスクリームが有名な店でもある。 正面入口から見た裏口側。裏口が階段を4段上がって高くなっているのは坂の町カイムキならでは オレゴンのカスケード・グラシア社のアイスクリーム ジェームス・リー・マッケルヘイニー氏 初代オーナーは “Head Pill” や “Mac” の愛称で知られたシカゴ出身のアイルランド系薬剤師、ジェームス・リー・マッケルヘイニー氏。患者ファーストの姿勢を貫き、いつも親身に相談に乗って顧客との信頼関係を築きあげた。家族経営の小さな店ながら、チェーン店のドラッグストアとの競争に負けることなく切り盛りしてきた。 シカゴで薬局を営んでいたマッケルヘイニー氏は、1960年代に妻のローズマリー氏とバケーションでハワイを訪れた。二人ともハワイがすっかり気に入り移住を決意。3人の子供を連れてホノルルに引っ越した。 クイーンズホスピタルやアイナハイナの薬局で働いたのち、1974年11月に独立店をカイムキの現在の場所に開いた。故郷シカゴの彼が生まれ育った界隈の雰囲気にカイムキが似ていたためこの場所を選んだのだそうだ。 開業当時はアイスクリームの他にサンドイッチも売っていたという。 地元民に愛されたマッケルヘイニー氏だったが、2007年3月9日に79歳で他界した。白血病を患っていたが、当時の約6000人の彼の顧客の多くは、彼が病気であることすら知らなかったらしい。 奇しくもアイリッシュの祭典であるセントパトリックス・デーの一週間前だった。セントパトリックス・デーの後、ダウンタウンのアイリッシュパブ『O’Toole’s』で追悼の会が開かれた。過去の従業員たちやマッケルヘイニー氏の多くの顧客が訪れたそうだ。 新型コロナで経営難に ピルボックスは、マッケルヘイニー氏の息子であるスチュアート・マッケルヘイニー氏が受け継いだ。父のモットーを守り、顧客と密着した経営スタイルで今日まで店の看板を守ってきた。 ところが、大型チェーンのドラッグストアがホノルル市内に増えるにつれて、経営は厳しくなっていった。そこに今年の新型コロナのパンデミックがダメ押しとなり、閉店することになった。店を受け継いだ2007年には1日平均130件ほどあった処方薬のオーダーは、現在では1日10軒以下しかないという。 最後のアイスクリーム 数十年間ほぼ変わらない雰囲気の店内 年季の入ったアイスクリームケース 店の中も外の様子も、私がカイムキで暮らし始めた2001年当時から約20年間ほとんど変わっていない。いや、店の古い写真から察するに、むしろ開店当時からそれほど大きくは変わっていないのではないか。 ピルボックスのような個人経営の薬局は、現在ハワイ州内に約10軒ほどあるそうだが、そのうちの1軒が今ひっそりと看板を下ろそうとしている。カイムキは古いホノルルの雰囲気を残す老舗が比較的多いエリア。そのうちの代表的な店の一つがなくなってしまうのはほんとうに寂しい。 「ピルボックスが閉店するらしいよ」 とローカルの同僚に教えると、すぐに彼から返ってきた言葉は 「なんてこったい……よし、じゃあ、アイスクリーム買ってきてオフィスのみんなで食べよう」 もちろん賛成。ピルボックスが46年の歴史の幕を下ろすのは11月14日。それまでにできるだけたくさんピルボックスのアイスクリームを食べて、古き良きカイムキの思い出に浸りたい。 写真はすべて筆者による撮影 参考記事 The Pillbox Pharmacy, a Kaimuki fixture for 46 years, to close its doorsPillbox Pharmacy in Kaimuki to close after 46 years in business'Mac' made The Pillbox a fixture

ビルボード(屋外大型看板広告)がないハワイ

マルヒア・ロード(カウアイ島)
ハワイの美しい景観を守るため 車でホノルル空港から高速道路をワイキキ方面に向かうとき、ハワイで最も賑やかなカラカーウア大通りを歩くとき、アラモアナセンターでショッピングするとき、あるいは、ドールプランテーションを過ぎてパイナップル畑を脇に見ながらノースショアへ向かうとき——いかなる場面でも、景観の面でハワイが日本やアメリカの他の州と際立って違うのは、どの道路沿いにもビルの屋上や壁にも、企業などの大きな看板広告、いわゆるビルボードがないということである。ひとつもない。 それもそのはず、ハワイ州では、1927年という昔から、屋外におけるビルボードの設置が法律で禁止されているのである。理由は単純明快、ハワイの美しい景観を守るため。 海と山に囲まれたハワイでは、街中の道路からでも美しい自然を眺めることができる。その景色が、人工的なビルボードによって邪魔をされないのは、よいことだと思う。ハワイでも、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット、交通機関など、あらゆる媒体に広告は存在するし、資本主義社会で広告は必要不可欠なものでもある。だがせめて、自然の景観くらいは広告なしでいいではないかという考えなのだろう。 ハワイ州がパイオニア ワイキキの目抜き通りカラーカウア通りでさえもビルボードはない ハワイ州以外にも、ビルボードを設置することを禁止している州はある。ヴァーモント州、メイン州、アラスカ州がの3州がそうだ。 ヴァーモント州では、やはり景観を守るために、1968年にビルボードの設置が禁止された。続いてメイン州で1977年に、アラスカ州で1998年に禁止された。 ハワイ州も含めて、どの州も自然が豊かで、観光が主要産業もしくは成長産業であることが共通点だ。ビルボード禁止の法律ができたのは、ハワイ州が最も早い。ハワイ州の次に早いヴァーモント州より41年も前の1927年にすでに施行されている。 ハワイで長く暮らしていると、無意識のうちに、ビルボードがない景色が当たり前になってくる。そんなハワイに慣れてしまった私が日本に帰省したとき、街中の看板やのぼり旗の多さに、むしろ驚いてしまう。 渋谷(東京)| 写真:Jezael Melgoza だが、看板やのぼり旗が街に活気と賑やかさを与えてくれるのは確かな事実であるので、その存在を否定はできない。ニューヨークのタイムズスクエアの華やぎは、巨大看板やディスプレイがあってこそのものだし、日本の繁華街でも同じことが言えると思う。 タイムズスクエア(ニューヨーク)| 写真:Luca Bravo ハワイ以外の場所の都市景観論はさておき、景観を守るために、ビルボード禁止という思いきったことをアメリカの中でも最初に行なったハワイ州。ハワイを訪れた観光客は、普段から自分の町で目にするビルボードがまったくないという、ある意味不思議な景色をみて、まさに別天地にやって来たような、うきうきとした気分になれるのにちがいない。

ハワイの柿

ホノルル市内のスーパーに並ぶ富有柿
冬の楽しみ 南国ハワイの果物といえば、マンゴー、パパイヤ、パイナップルなどを普通は思い浮かべるだろう。バナナ、アボカド、最近はドラゴンフルーツ(ピタヤ)も人気だ。そんなフルーツ天国ハワイの人々が——私も含めて——毎年10月~12月の短い季節限定で楽しみにしている意外な果物が柿である。 ハワイで出会った日本の柿 日本の秋冬を代表する果物のひとつだが、アメリカ人が柿を好んで食べるというイメージはまったくなかった。実際、1990年以前のハワイでは、柿は今ほどポピュラーな果物ではなかったらしい。だから私は、ハワイのスーパーマーケットで普通に柿が並んでいるのを初めて見たとき、その意外な出会いに驚いて思わず買ったことを覚えている。 ハワイの柿は、富有柿(ふゆうがき)や蜂屋柿(はちやがき)などの日本の品種で、スーパーや青果店では、それぞれローマ字で「Fuyu」、「Hachiya」と表記される。シーズン前半には「Maru」という黄色い品種もある。 Fuyu(富有) シャクシャクとした食感のFuyu(富有) 鮮やかなオレンジ色の甘柿。ハワイで流通している柿のほとんどはこの品種。シャクシャクとした食感。 Hachiya(蜂屋) クリーミーなHachiya(蜂屋) やや細長く、先が尖っている渋柿。収穫してすぐは渋くて食べられないが、追熟させて柔らかくなると、強い甘味を持つようになる。とろりとしたクリーミーな舌触り。スプーンですくって食べるほか、凍らせて食べる人も多い。 Maru 黄色っぽい渋柿。渋抜き処理を施してから出荷される。渋抜き後は、前の2品種よりも甘くなり、味も良いという。残念ながら私はまだ見たことも食べたこともない。 値段 2016年10~11月にホノルル市内で調べてみたところ、町の小さなポップアップ・ストアの青果店では、1ポンド(約450グラム)あたり1.99~2.99ドル(表記はなかったがおそらくFuyu)、スーパーマーケットでは2.99ドル(Fuyu)、日系のスーパーでは3.59ドル(Fuyu)、グルメスーパーとよばれる比較的高級な店(ホールフーズなど)ではFuyuが5.99ドル、Hachiyaが6.99ドルだった。 1個の重さはだいたい0.40ポンドくらいだから、1.99ドル/ポンドの場合は1個0.80セント、6.99ドル/ポンドの場合は1個2ドル80セントということになる。このように店によって値段は3倍以上も変わるが、グルメスーパーをのぞけば普通の相場はだいたい1個1ドル前後というところだろうか。 マウイ島クラの柿農園 マウイ島にそびえる巨峰ハレアカラー山(3,055m)。その西側の裾野にクラ地区がある。真夏の日中でも気温が25度を超えることはなく、冬の朝方は10度以下まで下がる。ハワイのなかでは冷涼な地域である。降水量も少ない。この気候が、柿の木を育てるのに適しているという。 そんなクラの地に、ハシモト・パーシモン・ファーム(Hashimoto Persimmon Farm)という100年以上の歴史を持つ柿の果樹園がある。Shinichi Hashimotoさんという日系1世の人が開いた農園だ。現在もかれの子孫のハシモト一家によって経営されていて、ハワイ産の柿のほとんどがこの果樹園と近所にあるもうひとつの果樹園で収穫されたものである。全収穫の半分は、農園で直売されるという。 ハワイで流通している柿のほとんどはカリフォルニアなどのアメリカ本土産であるが、たまにハワイ産のものもある。店頭で「Local」や「Locally Grown」、あるいは「Grown in Hawaii」などと記されていたら、それがマウイ島クラ産の柿である。せっかくハワイにいるなら、クラの柿を味わいたい。 写真はすべて筆者による撮影

ビーチサンダルは“スリッパーズ”と呼ぶのがハワイ流

ビーチサンダル
外出はいつでもどこでもビーチサンダル ハワイのローカルたちの足元の定番といえば、年中いつでもどこでもビーチサンダルである。ビーチに行くときだけでなく、カジュアルなレストラン、ショッピング、パーティーなどでも普通に履く。ときには結婚式にもビーチサンダルで出席する人もいる。もちろん、時と場合によってはビーチサンダルは禁止の場所も少なくないので注意が必要だ。 私は、元々は外出時に足のつま先が出ていることがあまり好きではなかったが、ハワイに来て20年が経とうとする今ではほぼ毎日、ビーチサンダルで外出するようになった。なによりも楽だし、突然の雨だって平気だし、足が蒸れないのがいい。 “Slippers”と呼ぶのがハワイ流 サンダル(sandals)のなかで、ゴムやビニールなどの素材でできていて鼻緒がある草履型のものをビーチサンダルという。英語では一般的にflip-flops(フリップフロップス)と呼ばれる。flipには「ぽんと弾く」とか、「ぴしっと打つ」などの意味があり、flopは「バタバタと動く」という意味。ビーチサンダルを履いて歩くときのペタペタとした音からつけられた一種のオノマトペである。ところがハワイの人たちは、ビーチサンダルのことをflip-flopsとはあまり言わずに、slippers(スリッパーズ)と言う。 Slippersは、本来の英語ではつま先部分が隠れた室内用の上履きのことで、通常、低いかかとがついたものをさす。日本のトイレなどで使う「スリッパ」の語源だと思うが、英語で日本のスリッパに本来近いのはscuffsやmulesなどであり、多少ややこしい。 とにかく、ハワイでは、外履きに使うビーチサンダルのことをスリッパーズという。レストランなどでビーチサンダルが禁止のドレスコードがある場合、ハワイでは「no slippers(スリッパーズ禁止)」と書かれている場合もある。 ハワイを代表するアイコンのひとつ スリッパーズは、サーフボードやヤシの木などと同じく、ハワイを代表するアイコンのひとつとなっていて、ハワイをイメージするイラストや、アロハシャツなどにも描かれる。また、アクセサリーのモチーフとしても人気があり、可愛らしい小さなスリッパーズが意匠されているネックレス、イヤリング、ベリーリングなどが作られている。スリッパーズの専門店も多く、店内には男女それぞれ向けの様々なデザインのスリッパーズがずらりと並んでいる。 室内では履物を脱ぐのもハワイ流 履物でもうひとつ、ハワイならではの文化がある。ハワイでは、家の中には履物を脱いであがるのが一般的なのだ。もちろん日本では当たり前のことなのだが、アメリカ人であるハワイのひとたちのほとんどが、室内ははだしで過ごす。日本の移民たちが持ち込んだ風習がいつの間にかハワイ中に広まったものだと言われている。 ホームパーティーなどでは、アメリカ本土からの客人が靴のまま家にあがろうとするので、家の人があわてて「Oh, no! ちょっと待って! 靴を脱いでください!」と制止する光景がよく見られる。

アロハの意味とアロハ・スピリット

砂浜に書かれたアロハ
挨拶だけではない 最も有名なハワイ語の単語であり、日本人にも言葉そのものはよく知られているアロハ。ハワイの日常的な挨拶の言葉で、いわゆる「こんにちは」という意味や、別れのときに「さようなら」という意味で使われる。 ハワイの人々は、挨拶の他に、相手に対する愛や思いやりを表す場合にもアロハを使う。例えばレストランで「私たちは最上の材料を使い、アロハを込めて料理します」とメニューに書かれていたり、車のドライバーに向けた標語で「アロハの気持ちで運転しましょう」などと言ったりする。 アロハには、調和、謙遜、我慢などのニュアンスもあり、ただの挨拶の言葉ではなく、人や自然に対して常に優しさや愛おしみを持って暮らす生き方や精神を表す言葉だといえる。この精神はアロハ・スピリットと呼ばれていて、ハワイで生まれ育った人たちの心の中に深く根付いていると私はいつも感じる。 ハワイの優しいドライバーたち ハワイの暮らしのなかでアロハ・スピリットがよく言われるのは、車の運転についてである。 車を運転していて、小さな道から大通りに合流するときに、私が知る限り、アメリカ本土では大通りの車はなかなか間に入れてくれない。しかしハワイでは、多くのドライバーが親切に譲ってくれるのだ。このことは、ハワイの田舎で特に顕著である。ホノルルの街中では、観光客のレンタカーや、ハワイに来て間もない在住者の車やタクシーも多いため、運転者の「優しさ」はアメリカ本土とさほど変わらないかもしれない。 なお、入れてもらった場合には、手を上げて謝意を表すのがハワイでの通例で、これもアメリカ本土ではあまり見られない。このとき、親指と小指を立てた「シャカ」のサインを出す人も多い。 車の運転はほんの一例だが、ハワイの人たちの多くが、たとえ初対面の人に対してでも、まるで家族のような親しみをもって接してくれる。 ハワイ流「おもてなし」 先日、オアフ島で財布を落としたある男性の話が記事になっていた。 記事によると、男性が落とした財布は地元のある家族が拾った。家族は、親切にも財布の中の身分証明書に載っていた、何マイルも離れた住所まで届けたが、その住所はすでに古く、そこに男性は住んでいなかった。そこで家族は、男性が利用する銀行に行き、電話番号を照会した。しかし、その電話番号も古いもので、つながらなかった。家族はそれでもあきらめず、今度はグーグルで男性の名前を検索し、ようやく連絡が取れた。男性が家族をたずねると、家族は男性を歓待し、なんと夕食まで馳走してくれた。男性は、謝礼を渡そうとしたが、家族は頑なに拒んだという。 なんという素敵なアロハ・スピリットだろう。 いつも人の気持ちになって考え、人の痛みを自分の痛みとして感じ、また人の幸せを自分の幸せだと感じることができる優しさ。周りの人にも家族のような愛情をもって接する暖かいこころ。いたわり。これがアロハの精神だ。2020年東京オリンピック招致のプレゼンで流行語になった、日本の「おもてなし」の精神にやや近いものがあるだろうか。 私はホノルルに20年近く住んでいるが、上の話に似たようなエピソードを何度も聞いたことがある。そんなとき、カマアーイナ(在住者)たちはたいていこう言う。 「こんなことが起こるのはハワイだけだよ」 ハワイを訪れる多くの人がハワイに魅了される理由のひとつが、島じゅうにみちみちているアロハ・スピリットであることは間違いない。島の人たちのフレンドリーで暖かいアロハの精神に触れれば、ハワイへの愛情は一層深いものになるのだ。 ただし、ハワイのみんながみんなこのアロハの精神を持っているわけではないので、もちろん注意は必要だ。

ホノルルの東西南北:ダイヤモンドヘッド・エヴァ・マカイ・マウカ

ホノルル式の東西南北
東西:ダイヤモンドヘッドとエヴァ ホノルルの人たち日常生活の中がよく使う、東西南北の独特な言い方がある。ダイヤモンドヘッド、エヴァ、マカイ、そしてマウカだ。これだけでピンと来た人はかなりのハワイ通だろう。 まず、「ダイヤモンドヘッド Diamond Head」と「エヴァ ʻEwa」で東と西を表す。これらは、ホノルル中心部にいる場合の地理的な位置関係である。ダイヤモンドヘッドは、言うまでもなくホノルルのランドマークであり、ワイキキ、アラモアナ、ダウンタウンなどにいる場合は東側に位置する。 エヴァは、オアフ島の西部にある地名である。有名なビーチ(ʻEwa Beach)があり、玉ねぎ(ʻEwa Sweet Onion)の名前にもなっているので聞いたことがある人も少なくないだろう。とはいえ、有名なダイヤモンドヘッドに対し、なぜ西の代表がエヴァなのだろう。 南北:マカイとマウカ 南は「マカイ Makai」、北は「マウカ Mauka」という言葉で表す。マカイには「海に向かって」という意味があり、マウカには「内地の」や「山に向かって」という意味がある。ホノルルでは、ほぼどこにいても北には山(コオラウ山脈)があり、南には海が広がっている。つまり山側か海側かで北か南かを表すことができるというわけだ。 例えば、アラモアナセンターの山側(北)はマウカ・サイド、海側(南)はマカイ・サイドと呼ばれているし、センターの海側にあるフードコートの名前は、マカイ・マーケットである。 ダイヤモンドヘッドとエヴァはホノルルでしか使えないが、マカイとマウカは、ホノルル以外の地域でも一般的に使われる。ただし、ホノルルでは山側が北で海側が南だが、この方角は当然場所によって変わってくる。例えば、マウイ島のカフルイでは、海がある北側がマカイであり、南側がマウカとなる。 ワイキキからアラワイ運河を挟んでマウカ(山側)を撮影。奥にはコオラウ山脈が連なる 東=ダイヤモンドヘッド、西=エヴァ、南=マカイ、北=マウカ——最初は覚えにくいかもしれないが、多くの地元の人たちは日常的に使っていて、例えば道案内をするときには「この道をマカイに進んで、交差点をエヴァの方に曲がる」などの言い方をする。 直感的でわかりやすい ホノルルにある程度長く暮らしているとこの感覚が染み付くし、慣れてくるとむしろ東西南北で言うよりも直感的でわかりやすい。ホノルル在住の日本人同士の会話でも、例えば「今クヒオ通りをダイヤモンドヘッドの方に向かっています」とか、「コンドミニアムには二つの棟がありますが、私の部屋は山側の棟です」などというふうに、ハワイ流の東西南北が使われることも多い。 写真は筆者による撮影

ハワイで見る南十字星

ハワイの南十字座イラスト
南の星座の代表格 時期にもよるが、ハワイでは、南十字星(みなみじゅうじ座)をきれいに見ることができる。88個ある星座のなかで最も小さい星座だ。小さいが、1等星が2つもあり明るくて目立つ。英語ではSouthern Cross(サザンクロス)という。 南半球ではもっとも代表的な星座のひとつである。オーストラリア、ニュージーランド、ブラジルなどの南半球の国の国旗にみなみじゅうじ座が描かれていることからも、シンボル的な星座であることがわかる。ニュージーランドでは2016年3月に国旗を変更するかどうかを決める国民投票が行われた。結果として国旗の変更は見送りになったが、最終候補に選ばれた、シダの葉を意匠した新国旗案にも、やはりみなみじゅうじ座が描かれていた。 南方にあるために、北緯25度より北では見ることができない。つまり日本からは沖縄や小笠原などの一部の地域を除いては見ることができないわけだが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」で、銀河鉄道の終着駅として南十字(サザンクロス)が印象的に登場することもあり、日本でもよく知られている星座だろう。 アメリカで唯一、南十字星が見える州 ワイキキビーチから見える南十字星 北緯21度のホノルルでは、12月から7月まで、南の空の低い位置にみなみじゅうじ座を見ることができる。アメリカ合衆国内でみなみじゅうじ座が見られるのはハワイ州だけである。 ハワイ語では南十字星のことをハーナイアカマラマ(Hānaiakamalama)という。直訳すると「月に世話されている」という意味。古代ポリネシア人が航海をするときに、方角を知るための大切な星だったそうだ。 ハワイでは、5月から6月にかけて、時間的にもっとも気軽に見ることができる。明るい星座なので、街の灯りが多いワイキキのビーチからでもよく見える。旅行者も在住者も、ハワイで南十字星を見られるということを知らずに日本に帰ってしまう人が多いと思うが、12月から7月の間にハワイにいらっしゃる方は、ぜひ南の空で美しい南十字星を探してみてほしい。 南十字星が見える時間の目安(ホノルル) 12月1日:6時半頃(日の出は7時頃)1月1日:6時頃 2月1日:4時頃 3月1日:2時頃 4月1日:0時頃 5月1日:22時頃 6月1日:20時頃 7月1日:日没後(19時半ごろ) ハワイで南十字星を探すコツ 南十字星の一番上の星と一番下の星までの長さと、一番下の星と水平線までの距離がほぼ同じ。「W」の形をしたカシオペヤ座が出ているときは、南十字星は出ていない。南十字星が出始める時間には、オリオン座は西に低くある。南十字星の右の星と左の星を結び、向かって左に延長した先には、ケンタウルス座のアルファ星とベータ星というふたつの1等星がある。特にアルファ星は、全天でおおいぬ座のシリウスとりゅうこつ座のカノープスに次いで3番目に明るい星なので、見つけやすい。南十字星の右側の星は、十字を形作る4つの星のなかでもっとも暗い。南十字星の右側の星の左斜め下には、通称「えくぼ星」と呼ばれるオレンジ色のイプシロン星(4等星)がある。 ホノルルの夜景と南十字星。中央付近にケンタウルス座のアルファ星とベータ星も見える。左にうっすらと見える山陰はダイヤモンドヘッド 写真はすべて筆者による撮影

ハワイの地名:その他の地名

ダイヤモンドヘッドから見たワイキキ
ハワイの地名といえば…… 前回、前々回と、鳥にちなんだハワイの地名を調べてみたが、ハレイヴァなどの一部を地名を除いては一般的に知られていないものが多かった。今回は、鳥に関係なくもっとよく知られたハワイの地名をいくつか紹介したい。 ワイキキ、アラ・モアナ、カイルア、ラニカイ、ハナウマ——ハワイの地名といえばまずこれらを思い浮かべる人が多いだろう。これらの地名は、もちろんすべてハワイ語である。 ハワイ Hawaiʻi まずそもそも、ハワイとはどういう意味だろうか? ハワイは、諸島全体の名前であり、通称「ビッグアイランド」と呼ばれる、最大の島の名前でもある。正確な発音は「ハヴァイイ」であるが、すでにあまりにも広く知られている名前なので、ここでは通例通り「ハワイ」と表記する。この名は、ニュージーランドやマルケサス諸島北部(ハヴァイキ、Havaiki)、クック諸島(アヴァイキ、ʻAvaiki)、サモア(サヴァイイ、Savaiʻi)など、ポリネシアはでいくつかみられる。これらの地域では共通して「祖国」もしくは「黄泉(よみ)の国」の名前を指す言葉であるが、ハワイにはそういう意味はない。しかし語源が共通した言葉である可能性は高いであろう。また、ハワイの語源はハワイロア(Hawaiʻiloa)という人物の名前に由来するとも言われている。ハワイロアは、彼の家族と8人の航海員とともに最初にハワイに住み着いたとされる伝説上の人物である。 ハワイ島マウナ・ケアの夕日 以上のように、ハワイの語源は諸説あるが、そのほかの有名な地名は意味や由来が比較的わかりやすい。 ワイキキ Waikīkī ハワイ観光の中心地ワイキキは、「噴き出す水」という意味である。正確には「ワイキーキー」と伸ばして発音する。ワイキキ一帯は昔は湿地であり、アラワイ運河ができる以前はマキキ、パーロロ、マーノアから流れる川がワイキキを通って海に注いでいたという。 「噴き出す水」という意味があるワイキキ アラ・モアナ Ala Moana ハワイ最大のショッピングセンターがある、観光客にもおなじみの地名アラ・モアナは、直訳すると「海道」となる。 アラ・モアナを海側から望む カイルア Kailua オアフ島のウインドワードに位置する、お洒落な町として観光客にも人気があるカイルアは、「二つの海」という意味。ハワイ島のコナ、マウイ島のパーイアにも同じ名前の地名がある。 ラニカイ Lanikai そのカイルアにあるラニカイ地区は、以前はカオーハオ(Kaʻōhao)と呼ばれていた。1924年から開発が始まり、現在のラニカイに改名された。「天国の(ような)海」という意味だが、英語の「heavenly sea」を直訳してハワイ語にしたものと思われる。普通ハワイ語では修飾語は名詞の後にくるから、本来なら「カイラニ(Kailani)」とすべきところだろう。 カーネオヘ Kāneʻohe カイルアの西隣の町カーネオヘは、「竹男」という意味。昔この場所に住んでいた乱暴な男の妻が、夫を「竹(ohe)で作ったナイフのような男だ」と揶揄したという話が地名の由来だという。 関連記事 オヘ(バンブー) アヌヘア:ハワイの花・植物・野鳥図鑑 ハナウマ Hanauma 穏やかな湾内でのスノーケリングで人気があるハナウマは、「カーブした湾」や「腕相撲湾」などの意味が考えられるが、弧を描くような湾の地形から付けられた名前と考えるのがもっとも自然かと思える。なお、ハナ(hana)は湾という意味なので、ハナウマ湾や、ハナウマ・ベイというのは意味が重複していることになる。フラダンスが「フラ(=踊り)ダンス(=踊り)」となってしまうのと同じである。 穏やかなビーチが人気のハナウマは、「カーブした湾」という意味 以上、ハワイの有名な地名を紹介した。ハワイの地名は、日本やアメリカ本土と比べるとある程度は地名の意味や由来がわかっている。ハワイの行く先々で地名の意味を調べ、なぜその地名がついたのかさらに調べたり想像を膨らませたりするのも、ハワイの楽しみかたのひとつだと思う。 写真はすべて筆者による撮影 参考文献 Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert『Hawaiian Dictionary (Revised and enlarged edition)』University of Hawaiʻi Press(1986年) Mary Kawena Pukui, Samuel H. Elbert, Esther T. Mookini『Place Names of Hawaii (Revised and expanded edition)』University of Hawaiʻi Press(1974年)

ハワイの地名:鳥名がつく地名

イヴァ(オオグンカンドリ)
前回の記事では、ハワイ語で鳥という意味の「manu」がつく地名を紹介した。今回は、いろいろな鳥の名前がつく地名を探してみる。地名というが、前回同様、山や川などの名前も含めて紹介する。 アエオ ʻAeʻo(セイタカシギ)の地名 アエオ(クロエリセイタカシギ) ククルアエオ Kukuluaeʻo ホノルルのケワロ港(Kewalo Basin)に面していた区画の名前。ククルアエオは、アエオの別名。現在の町の姿からは想像しがたいが、昔は沼地で、塩田や魚の養殖池などがあったそうだ。当然、アエオもたくさんすんでいたであろう。 アラエ ʻAlae(バン)の地名 アラエ・ウラ(バン) アラエ ʻAlae ハワイ島のホノムー(Honomū)と、マウイ島のクラ(Kula)にある地名。また、ハワイ島のキーラウエア・クレーター(Kīlauea Crater)近くにあるクレーターや、モロカイ島にあるの山の名前にもある。 アラエ・イキ ʻAlae Iki マウイ島のキーパフル(Kīpahulu)近くにある地名。直訳すると「小鷭」 アラエ・ヌイ ʻAlae Nui アラエ・イキの近くにある地名。直訳すると「大鷭」 アラエロア ʻAlaeloa マウイ島のホノルア(Honolua)にある地名。直訳すると「遠鷭」 アラエロア・ヌイ ʻAlaeloa Nui マウイ島のホノルア(Honolua)にある地名。直訳すると「遠小鷭」 ナーアラエ Nāʻalae マウイ島のプウオカリ(Puʻuokali)にある峡谷の名前。「nā」は結びつく名詞が複数の場合に使われる冠詞で、英語では通常「the」と訳される。 ワイアラエ Waiʻalae ホノルルのウィルへルミナ・ライズ(Wilhelmina Rise)とアーイナ・ハイナ(ʻĀina Haina)の間に位置する地区の名前。直訳すると「鷭水」となり、この場所の湧水にちなんだ名前だと伝えられている。ワイアラエのすぐ近くにあるダイヤモンドヘッドにも昔はバンがいたというから、ワイアラエにも昔は水辺があって、たくさんのバンがすんでいたのだろう。今の町並からは全く想像できない。 余談だが、カーハラ(Kāhala)とカイムキー(Kaimukī)を東西に走るその名もずばりワイアラエ通りに、「Mud Hen Water」という雰囲気のいいレストランがある。このMud Henとはバンのことで、つまり店の名前はワイアラエを英語にしたものである。 カイムキーのワイアラエ通りにあるレストラン Mud Hen Water は、ワイアラエを英語に直訳した名前である。 またワイアラエは、カウアイ島のワイメア(Waimea)にある川、滝、山の名前にもある。 アララー ʻAlalā(カラス)の地名 プウアララー Puʻuʻalalā ニイハウ島北東部にある丘の名前。標高64メートル。直訳すると「烏丘」 ワイアカアララー Waiakaʻalalā ハワイ島のカウー(Kaʻū)にある湧水の名前。直訳すると「烏による水」となる。湧水は、1907年の溶岩流のあとカラスによって見つけられたと伝えられている。 イヴァ ʻIwa(グンカンドリ)の地名 イヴァ(オオグンカンドリ) カイヴァ Kaʻiwa カウアイ島のハナレイ(Hanalei)にある川や、オアフ島のラニカイ(Lanikai)にある尾根の名前。尾根からはオオグンカンドリが飛んでいる姿が頻繁に見られる。「ka」は冠詞で、英語では通常「the」と訳される。 ナーイヴァ Nāʻiwa モロカイ島のカウナカカイ(Kaunakakai)にある地名。「nā」も、「ka」と同じような冠詞だが、結びつく名詞が複数の場合には「nā」が使われる。 ハレイヴァ Haleʻiwa 観光客にも人気がある、オアフ島ノースショアにある町の名前。直訳すると「グンカンドリの家」 イオ ʻIo(タカ)の地名 イオ(ハワイノスリ) プウイオ Puʻuʻio マウイ島にある丘の名前。標高866メートル。直訳すると「鷹丘」。イオは現在ハワイ島にしか生息していないが、化石から昔は他の島にも住んでいたことがわかっている。 イオラニ ʻIolani ハワイ王室の宮殿の名前。地名ではないが、有名なので紹介しておく。ラニ(lani)には「王室の」とか「高貴な」などの意味がある。宮殿については他のたくさんのウェブサイトやガイドブックに詳しく書いてあるので、興味がある方はそれらを参考にしてほしい。 ウアウ ʻUaʻu(ミズナギドリ)の地名 ウアウ・カニ(オナガミズナギドリ) プウウアウ Puʻuʻuaʻu オアフ島のアイエアにある丘の名前。標高505m。直訳すると「ミズナギドリ丘」 ウーリリ ʻŪlili(メリケンキアシシギ)の地名 ウーリリ(メリケンキアシシギ) ナイアカウーリリ Naʻiakaʻūlili ニイハウ島にある湧水の名前。「ウーリリが探した」という意味。この湧水がウーリリよって発見されたという言い伝えに由来するそうだ。 オーマオ Ōmaʻo(ツグミ)の地名 オーマオ(ハワイツグミ) オーマオピオ Ōmaʻopio マウイ島のマーケナ(Mākena)にある地名。直訳すると「さえずる鶫」 コアエ Koaʻe(ネッタイチョウ)の地名 コアエ・ケア(シラオネッタイチョウ) コアエ Koaʻe ハワイ島のマクウ(Makuʻu)にある地名。 コアエケア Koaʻekea マウイ島ハーナ(Hāna)にある地名。ハワイ島ハーマークア(Hāmākua)にある崖の名前にもある。コアエケアとは、シラオネッタイチョウのこと。ケア(kea)は白という意味。その名の通り、尾羽が白い。尾羽が赤いアカオネッタイチョウもいるが、こちらはコアエウラと呼ばれる。ウラ(ʻula)は赤という意味。 パリコアエ Palikoaʻe ニイハウ島の北東部にある地名。直訳すると「ネッタイチョウ崖」 プウコアエ Puʻukoaʻe モロカイ島、マウイ島、ハワイ島にそれぞれある丘や、カホオラヴェ島の南にある小島の名前。直訳すると「ネッタイチョウ丘」 レレコアエ Lelekoaʻe モロカイ島北部の地名。直訳すると「ネッタイチョウの戦い」 コーレア Kōlea(チドリ)の地名 コーレア(ムナグロ) アカニコーレア Akanikōlea ハワイ島のキーラウエア・クレーター(Kīlauea Crater)近くにある地名。直訳すると「千鳥鳴き」 コーレアリイリイ Kōlealiʻiliʻi オアフ島のワイアナエ・バレー(Waiʻanae Valley)にある丘の名前。標高382メートル。直訳すると「小千鳥」 パパコーレア Papakōlea ハワイ島南部、アメリカ合衆国最南端のサウス・ポイント(Ka Lae)近くにある浜。グリーンサンドビーチとも呼ばれる。世界に4箇所しかないという珍しい緑色の砂で有名。また、オアフ島ホノルルのパウオア(Pauoa)にある、ネイティブハワイアンの住居コミュニティの名前としても知られる。直訳すると「千鳥平地」 コロア...