王子を讃えるフラの祭典
夏真っ盛りの7月、私がハワイで毎年楽しみにしているイベントがある。ホノルル市内のモアナルアガーデンで開催される、プリンスロット・フラフェスティバル(Prince Lot Hula Festival)というフラの祭典だ。
まず、フラについて。いわゆるフラダンスのことだが、「フラ(hula)」がそもそも「踊り」という意味のハワイ語なので、フラダンスは「踊り踊り」という重言になる。このブログでは、日本でも「フラ」で一般に定着することを期待して、ハワイでの正しい言い方である「フラ」で統一する。
プリンスロットは、「ロット王子」という意味。ハワイの王朝時代に実在したロット・カプアーイヴァ(Lot Kapuāiwa、1830–1872)のことで、1862年より国王カメハメハ5世になる人物である。一時は禁止されていたフラの復活に尽力した人として知られる。モアナルアは、プリンスロットが気に入っていた場所だったそうで、かの地で夏に過ごすためのコテージも建てた。プリンスロットは、モアナルアでよくパーイナ(pāʻina、夕食会)を開き、客人をフラとメレ(音楽)でもてなしたという。コテージは、その後何度か移築され、現在はモアナルアガーデン内にある。
そんなプリンスロットの功績を讃え、彼にゆかりのあるモアナルアの地で、彼の名を冠したフラの祭典『プリンスロット・フラフェスティバル』が、1978年に始まった。以来、非営利団体モアナルアガーデン財団(Moanalua Gardens Foundation)によって毎年開かれている。
2014年までは、7月の第3土曜日に開催されていたが、2015年から土曜と日曜の2日間行われるようになった。私は、2006年に友人が出場したのを観に行って以来、予定が合うかぎり毎年観に行っている。今年は7月16日と17日に開催され、2日間で20のハーラウ(hālau。フラの一座、学校)が出演した。また今年は、2日目の最初にライアテア・ヘルム(Raiatea Helm)のコンサートもあったが、私は残念ながら今年は2日目には行くことができなかった。
競技会ではない
ハワイにはたくさんフラの祭典や大会がある。毎年4月にハワイ島のヒロで開催される『メリーモナーク・フラフェスティバル』は、中でも最大のものだ。それら大きなイベントの多くは、踊りの美しさなどを競う、いわゆる競技会である。
プリンスロット・フラフェスティバルの特徴のひとつは、競技会ではないということ。つまり、踊りを競うのではなくて、ハワイの文化と伝統を披露して、みんなでシェアするという大会なのである。プリンスロット・フラフェスティバルは、競技会の形式をとらないフラの大会としては、ハワイ最大のものである。
そういうこともあってか、出演者も観客も、比較的リラックスした和やかな雰囲気のなかでフラが披露される。観客の前で踊るのは今大会が初めてというダンサーも少なくない。
「彼女たちは、今日がデビューなんです!」
などとクム(先生)が紹介すると、観客からは大きな拍手が起きる。そんな温かい雰囲気のフラフェスティバルだ。
だからといって、内容が生ぬるいわけではない。厳かなカヒコ(kahiko、古典フラ)も優雅なアウアナ(ʻauana、現代フラ)も、みんな真剣そのもの。メレ(音楽)だってほとんどが生バンドによるクオリティの高いライブ演奏だ。衣装もレイも、ため息が出るほど美しい。1日中観ていても飽きない。
マリア・カウ賞
1日目、ハーラウによるフラが始まる前に、モアナルアガーデン財団によるマリア・カウ賞(Malia Kau Award)の授賞式がある。2014年に始まった賞で、今年が3回目。長年にわたるハワイの伝統文化の保存とフラへの貢献が讃えられ、毎年2人のクム・フラ(kumu hula、フラの先生)が受賞する。グラミー賞でいう特別功労賞生涯業績賞のようなもの。今年は、コリン・アイウ氏(Coline Aiu)とキモ・ケアウラナ氏(Kimo Keaulana)が受賞した。
「この木なんの木」がある場所
会場のモアナルアガーデンは、テレビCMでおなじみの「この木なんの木気になる木」があることでも知られる公園である。日本人には有名なあの巨木は、モンキーポッドという。熱帯アメリカ原産のマメ科の高木で、ハワイには1847年に移入された。CMの映像でもわかるように、モンキーポッドは、大きな傘を広げたように枝が伸びて広い木陰を作る。
モアナルアガーデンには、「この木なんの木」の他にもモンキーポッドの大樹が何本もあり、プリンスロット・フラフェスティバルは、そのモンキーポッドの木々の木陰で行われる。フラを鑑賞するには絶好のロケーションだ。観客はそれぞれ椅子や敷物を持ってきて、ゆったりとピクニック気分で木陰の涼しい風に吹かれながらフラを楽しむことができる。
パー・フラ(フラのマウンド)
会場の前方中央に、パー・フラ(pā hula)と呼ばれる、フラを踊るための広いマウンドがある。パー・フラは、古代ハワイのモアナルアにたくさんあったという。プリンスロット・フラフェスティバルのパー・フラは、1980年に作られたもので、カマイプウパア(Kama‘ipu‘upa‘a)と名付けれてている。
パー・フラはきれいに芝で覆われていて、その背後は、キー(ティ)の葉が生い茂っている。頭上は天を覆い尽くすモンキーポッドの枝々と葉っぱ。そんな緑一色の景色のなか、色とりどりのダンサーがマウンドにあがり、フラを披露する。まことに絵になる。
最後は会場全員で『ハワイ・アロハ』を合唱
2日目、すべてのハーラウの演技が終わると、最後に観客全員が立ち上がり、みんなで『ハワイ・アロハ』を歌う。隣の人と手をつないで歌う。親子も、恋人たちも、老夫婦も、手をつないでみんな歌う。会場が大きなアロハで包み込まれる。このときはいつも、ハワイで暮らしていてよかったと心から思う。
——フラを観るのはもちろん楽しみなのだが、私がプリンスロット・フラフェスティバルに毎年足を運ぶ理由は、もしかしたら、モアナルアガーデンという素敵な場所で『ハワイ・アロハ』をみんなで歌うときの、あのなんともいえないピースフルな雰囲気を味わいたいからなのかもしれない。
【追記】2017年以降、プリンスロット・フラフェスティバルはモアナルアガーデンではなくホノルルのイオラニ宮殿で開催されるようになりました。
写真はすべて筆者による撮影