ハワイの美しい景観を守るため
車でホノルル空港から高速道路をワイキキ方面に向かうとき、ハワイで最も賑やかなカラカーウア大通りを歩くとき、アラモアナセンターでショッピングするとき、あるいは、ドールプランテーションを過ぎてパイナップル畑を脇に見ながらノースショアへ向かうとき——いかなる場面でも、景観の面でハワイが日本やアメリカの他の州と際立って違うのは、どの道路沿いにもビルの屋上や壁にも、企業などの大きな看板広告、いわゆるビルボードがないということである。ひとつもない。
それもそのはず、ハワイ州では、1927年という昔から、屋外におけるビルボードの設置が法律で禁止されているのである。理由は単純明快、ハワイの美しい景観を守るため。
海と山に囲まれたハワイでは、街中の道路からでも美しい自然を眺めることができる。その景色が、人工的なビルボードによって邪魔をされないのは、よいことだと思う。ハワイでも、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット、交通機関など、あらゆる媒体に広告は存在するし、資本主義社会で広告は必要不可欠なものでもある。だがせめて、自然の景観くらいは広告なしでいいではないかという考えなのだろう。
ハワイ州がパイオニア
ハワイ州以外にも、ビルボードを設置することを禁止している州はある。ヴァーモント州、メイン州、アラスカ州がの3州がそうだ。
ヴァーモント州では、やはり景観を守るために、1968年にビルボードの設置が禁止された。続いてメイン州で1977年に、アラスカ州で1998年に禁止された。
ハワイ州も含めて、どの州も自然が豊かで、観光が主要産業もしくは成長産業であることが共通点だ。ビルボード禁止の法律ができたのは、ハワイ州が最も早い。ハワイ州の次に早いヴァーモント州より41年も前の1927年にすでに施行されている。
ハワイで長く暮らしていると、無意識のうちに、ビルボードがない景色が当たり前になってくる。そんなハワイに慣れてしまった私が日本に帰省したとき、街中の看板やのぼり旗の多さに、むしろ驚いてしまう。
だが、看板やのぼり旗が街に活気と賑やかさを与えてくれるのは確かな事実であるので、その存在を否定はできない。ニューヨークのタイムズスクエアの華やぎは、巨大看板やディスプレイがあってこそのものだし、日本の繁華街でも同じことが言えると思う。
ハワイ以外の場所の都市景観論はさておき、景観を守るために、ビルボード禁止という思いきったことをアメリカの中でも最初に行なったハワイ州。ハワイを訪れた観光客は、普段から自分の町で目にするビルボードがまったくないという、ある意味不思議な景色をみて、まさに別天地にやって来たような、うきうきとした気分になれるのにちがいない。