Tippsy Sake
Tippsyは、ロサンゼルスに拠点を置く日本酒販売会社です。私はクリエイティブディレクターとして、創業時からブランディングを担当しています。
アメリカには、日本酒の素晴らしさを情熱的にアメリカ人に教える伝道者のような日本人やアメリカ人がたくさんいます。また、しっかりした輸入業者の場合は、日本酒は冷蔵保存を徹底させるべきであるという認識が流通の各過程まで行き届いていて、2000年代に入る頃には、フレッシュな生酒さえもアメリカで美味しく飲めるようになりました。
伝道者たちの長年にわたる啓蒙活動の甲斐もあって、そしてフレッシュで美味しい日本酒が飲めるようになったこともあって、一昔前に比べるとアメリカでの日本酒の認知度は格段にあがり、熱心な日本酒ファンも急増しています。
しかし、それもニューヨークやカリフォルニアなどの一部の大都市圏と、日本文化が色濃く根付いているハワイなどでの話です。その他の地域の大多数のアメリカ人にとっては“sake”といえばいまだに「アジアのミステリアスなドリンク」であるし、あくまでも「ジャパニーズレストランや寿司バーで飲むお酒」です。
それに、たとえニューヨークやロサンゼルスでも、日本酒はまだワインやウイスキーのように多くの人が小売店でボトルを購入して普段から家庭で楽しむようなお酒ではありません。
Tippsyは、ワインにも負けない素晴らしい魅力がある日本酒をより多くのアメリカ人に知ってもらい、レストランだけでなく家庭でも気軽に飲んでもらえるようにするために、オンラインでの販売プラットフォームを立ち上げました。
ブランディング
Tippsyは多くの日本酒銘柄(ブランド)を取り扱う小売店ですが、その小売店自身にもブランディングはとても大切です。小売店自体のブランディングは、全体的なショッピング体験を通じて形成され、顧客にとっての価値を作り出します。
それでも、あくまで主役は私たちが取り扱う日本酒の各ブランドであるため、Tippsy自体は過度に主張の強いブランディングにはならないように気をつけています。
日本酒のなかには大胆にモダンなブランディングを行っている銘柄や、欧米生まれのブランドも存在します。Tippsy自身が全体的に「和風」の要素を極力取り入れていないのは、全ての銘柄のブランドイメージを尊重し、それらに影響を与えないためです。
ロゴ
Tippsyは、「ほろ酔い」という意味の「tipsy」に由来する造語です。
“Fun-loving, simple and organic”(楽しく、シンプルに、自然体に)という “Tippsyらしさ” を表現できるように心がけてロゴをデザインしました。
タグライン “Spread the love of sake”
Tippsyはなにを果たすために、誰のために、何のために、存在するのか?
この問いに答える “Tippsyの大義” をタグラインとして言葉にするために、創設者でありCEOの伊藤元気氏と何度も深く議論をしました。
伊藤氏が語るTippsyのミッション(使命)は、
「日本酒の魅力をわかりやすく楽しく伝え、アメリカで “Sake” というカテゴリをワインやビールと同等に認知させ、アメリカ人のライフスタイルに定着させること」
では、それは誰のため、何のためなのか?
日本酒をアメリカに広めることは、もちろん酒蔵のため、日本酒のため、そして日本のためにもなります。しかし、私が感じた伊藤氏の最も強い思いは、
「ワインにも負けないこんなに素晴らしい飲み物があるのに世界に知られていないなんてもったいないから」
ということでした。
「美味しい日本酒を飲んだときのあの幸せを世界で分かち合いたい」
「日本酒を世界の “Sake” にしたい」
こういった思いを抱く伊藤氏が書いたある文章の中で、私は「spread the love of sake」というフレーズを見つけました。「日本酒愛を広げる」という意味です。
その瞬間、私はこれがタグラインにぴったりだと確信しました。使命も、目的も、全てこの一言に詰まっています。伊藤氏もこれに賛同し、このフレーズがTippsyのタグラインとなりました。
ブランドガイドライン
日本酒を世界の “Sake” にするための大きな壁のひとつは言葉の壁です。そのため、Tippsyのブランドガイドラインでは、使命、目的、ブランドパーソナリティ、色、文字、写真などについての一般的なガイドラインに加え、エディトリアル(文章編集)の部分に特に重点を置いています。
Tippsyのウェブサイトや印刷物はすべて英語です。日本語でも難解な日本酒の専門用語や固有名詞が頻繁に登場するため、これらの表記や表現のガイドラインを細かく設定し、二重三重の校閲・ファクトチェックを行う編集プロセスを整備しました。
また、英語そのものも、出版社なみの編集クオリティを志向しています。ネイティブスピーカーのライター兼エディターをフルタイムでチームに迎え、表記はAPスタイルブックのガイドラインに統一しています。Tippsyが最終的に世に出す文章は、どんなに短いフレーズでも、必ずエディターが目を通すようにしています。
これらは直接売上につながりにくい地味な作業ですが、Tippsyが英語圏での日本酒情報のスタンダードになることができれば、他社には到底追いつけない、ブランドの強みになると私は信じています。
ウェブサイト
日本酒が、ワインのように家庭でも普通に楽しむお酒になっていない理由の一つが、日本酒のわかりにくさだとTippsyは考えます。
日本酒のラベルの多くは日本語で書かれているため、アメリカ人は読むことができません。リカーストアや日系スーパーで日本酒を買いたくてもどれを選べばいいのかわからないし、日本酒の正しい知識を持った店員がいる店はごくわずかです。
日本酒のカテゴリ分けも複雑で、たとえばラベルに「Yamadanishiki Kimoto Junmai Daiginjo Genshu “Chotokusen”」(山田錦生酛純米大吟醸原酒『超特選』)と、たとえローマ字で書かれてあっても、日本語がわからないアメリカ人には呪文にしか見えません。
Tippsyのウェブサイトでは、日本酒初心者でもできるだけわかりやすく目当ての商品、好みの商品が見つかるようにカテゴリの分けかたやインターフェイスを工夫しました。商品ページではアイコンやグラフなどを多く使って視覚的にシンプルでわかりやすいデザインになるよう心がけました。
ウェブサイト:www.tippsysake.com
ボトル写真
Tippsyの主力商品である720ml入りの日本酒ボトルの写真を撮影しました。それぞれの商品に合うグラスやカップ、ペアリング料理をTippsyのプロダクトマネージャーの方と綿密に打ち合わせをして撮影しました。普段の撮影はフォトグラファーにお願いして私はディレクターに徹することが多いのですが、今回は久しぶりに自分で写真撮影をしました。撮影した写真は、Tippsyのウェブサイトや印刷物に使用されています。
サブスクリプションボックス『Sake Box』
Tippsyは『Tippsy Sake Club』と呼ばれる会員制のサブスクリプションも展開しています。クラブ会員は、3ヶ月に1回、異なる銘柄の300ml小瓶が6本、『Sake Box』と呼ばれる箱に入って会員に届けられます*。また会員は、全ての商品に対して送料無料やメンバー割引料金などの特典が得られます。
*Sake Box は2023年3月に終了しました。2023年3月以降は各顧客の好みに合わせてお酒がキュレーションされる新システムを導入しています。
酒カード
Sake Boxには、6本の日本酒の他にハガキサイズのカードが6枚同封されていて、それぞれの酒の説明、日本酒度などの数値、日本地図、おすすめの温度や食材などが詳しく書いてあります。これらのカードは客から好評で、「すべてのカードを集めたいから売ってほしい」とTippsyに問い合わせてきた人もいたそうです。
ミニ酒カード
コロナ禍も終わりオフラインでの各種イベントに日本酒テイスティングのブースを出展する機会が増えてきた2023年、ブースに置くための名刺サイズの商品カードを制作しました。
ブックレット
初回のSake Boxには、日本酒ビギナー向けのガイドブックも付いてきます。24ページの小冊子に、日本酒の歴史、カテゴリ、味わい方、料理との合わせ方、温度についてなどが説明されています。
ニュースレター『Tippsy Tribune』
2021年6月からは『Tippsy Tribune』というニュースレターを刊行し、Sake Boxに同封するようになりました。ニュースレターはタブロイドサイズの紙を半分に折った4面で、カバーストーリー、新商品のお知らせ、酒蔵便り、日本酒に深く踏み込んだ連載記事、レシピ記事などで構成されています。
封筒
Tシャツ
TippsyオリジナルのTシャツです。アートはホノルル在住のグラフィックデザイナー Sanako Saito さんにお願いしました。Tippsyのウェブサイトから購入可能です。
日本酒フェス “Tippsy Sake Fest”
2024年6月1日初開催の日本酒フェス「Tippsy Sake Fest」にて使用されたロゴ、バナー、その他関連グラフィックのデザインを手がけました。詳細は「日本酒フェス “Tippsy Sake Fest”」をご覧ください。